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東京地方裁判所 昭和61年(行ウ)44号 判決 1989年2月14日

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告が中央労働委員会昭和五九年(不再)第七号不当労働行為救済申立事件について昭和六一年一月二二日付けでなした不当労働行為救済命令はこれを取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  大阪府地方労働委員会は、参加人組合(以下、単に「組合」ということもある。)が大阪赤十字病院(以下、単に「病院」ということもある。)を被申立人として申立てた不当労働行為救済申立事件(昭和五七年(不)第六四号)について、昭和五九年一月一三日付けで別紙一のとおりの命令(以下、「本件初審命令」という。)を発した。大阪赤十字病院が右命令を不服として被告に対し再審査の申立(昭和五九年(不再)第七号)をしたところ、被告は、昭和五九年九月一九日の第九四三回公益委員会議において、原告を再審査申立人として追加する旨決定し、同月二二日付けでその旨原告に通知したうえで、昭和六一年一月二二日付けで、再審査申立人としては被告のみ表示して、別紙二のとおりの命令(以下、「本件再審査命令」という。)を発し、右命令書は同年三月五日原告に交付された。

2  しかしながら、本件再審査命令は、以下述べるとおりの違法があるので、取消されるべきである。

(一) 再審査手続の違法

本件初審命令は、原告の構成部分にすぎない大阪赤十字病院を名宛人とする瑕疵のあるものであったが、被告は、原告を再審査申立人に追加する旨決定したうえで、本件初審命令を取消さずに、原告のみを再審査申立人として本件再審査命令を発している。

しかしながら、右追加決定は、原告と病院を別個の法人格として取扱うものであって、これが同一の法人格であることを前提とする本件再審査命令と矛盾するものであり、また、本件再審査命令は、当事者を誤った瑕疵のある本件初審命令を取消さずに、再審査申立てをしていない原告を再審査申立人とするものであり、これらの点において本件再審査命令の再審査手続は違法である。

(二) 団体交渉拒否の正当理由に関する認定判断の誤り

本件再審査命令は、大阪赤十字病院と参加人組合が昭和五七年六月二八日付け確認書(以下、「六月二八日付け確認書」という。)を調印することにより、右両者の間に、昭和五七年夏期一時金として月数部分二ケ月及び一律部分一万四〇〇〇円(以下、「二か月+一万四〇〇〇円」という。)を同月二九日に支払うとの合意が成立したことを認定しながら、その上積みについては、上積みしないとも、後日別途協議するとも合意に達していなかったとして、大阪赤十字病院が、夏期一時金は妥結済みであるとの理由で、参加人組合の団体交渉に応じないことは、労働組合法七条二号に該当する原告の不当労働行為であると判断している。

しかしながら、右確認書の調印によって昭和五七年夏期一時金の問題は全部妥結したものというべきであり、原告の団体交渉拒否には正当な理由があるのであって、右の認定判断は誤りである。即ち、

(1) 昭和五七年の夏期一時金について、参加人組合と大阪赤十字病院の間で問題となっていたのは、一律部分をいくらにするかであり、一律部分が更に一万四〇〇〇円と上積み部分に分かれているわけではなく、これを別個のものとして一律部分のうち一万四〇〇〇円については合意に達したが、上積み部分については合意に達していなかったとすることはできない。

また、昭和五七年夏期一時金交渉においては、一律部分をいくらにするかが終始最大の重要論点であったのであるから、妥結により紛争を収束するにあたり、一万四〇〇〇円に上積みをしないとも、あるいは一万四〇〇〇円は内金として支払い、上積みについては後日別途協議するとの合意にも達せず、この問題を放置したまま労使が確認書に調印することは常識上全く考えられないことである。

(2) 本件再審査命令は、右判断の根拠として、<1>大阪赤十字病院における夏期一時金をめぐる労使の対立は、一律部分が昭和五〇年に減額されて近畿の日赤病院との間に約一万円の格差が生じたことから、翌年以降はもっぱら一律部分の格差是正をめぐるものとなり、病院も昭和五六年夏期一時金妥結の際に今後格差是正の努力をしていくことを確認し、また、昭和五七年夏期一時金をめぐる交渉においても前年実績を尊重したいとしており、組合が前年実績とは一律部分を前年の支給額より一五〇〇円上積みすることと理解したことにも無理からぬものがあること、<2>昭和五七年六月二四日にもたれた小団交において、岡田勲業務部長名で作成された「昭和五七年夏期一時金における六月二三日付けの地方労働委員会調停委員長見解については別途労使協議していく」との回答書(以下、「岡田回答書」という。)が組合に交付され、これを受けて組合は同年六月二八日の臨時大会において、この回答書に基づく協議を継続できるとして妥結することを決定していること、<3>同大会後行われた組合と病院の折衝においても、組合は、交渉継続を前提に妥結するとし、格差是正の約束を守り、今後交渉を継続するよう申し入れているのに対し、病院は「一応ここで終結した」と述べて六月二八日付け確認書に調印していること、<4>右確認書調印の翌日、参加人が申し入れた団体交渉の場において、病院が「六月二八日付け確認書により一応妥結することで終わっているというのが病院の見解である」と述べていることの四点を挙げて、組合はもちろん病院も、右確認書の調印により本件一時金問題は一応解決されたとしても、一律部分の上積み問題についてまで合意に達していたとは考えていなかったとするが、右<1>ないし<4>は次に述べるとおり事実を誤認したものであるか、または、上積みについて合意に達していないと判断する根拠とはなり得ないものである。

{1} <1>について

大阪赤十字病院の夏期一時金は、昭和四九年に月数部分一・七ケ月、一律部分九〇〇〇円及び加給金二〇〇〇円であったのが、昭和五〇年には月数部分二・〇ケ月一律部分二〇〇〇円及び加給金二〇〇〇円となったものであって、一律部分は七〇〇〇円減額されたものの、月数部分が〇・三ケ月分増額された結果、大阪赤十字病院の個々の職員への支給総額は、むしろ前年より平均七万七四五八円も増額されたのであって、昭和五〇年夏期一時金減額の事実はなく、また、同年の大阪赤十字病院を含む近畿一四病院の職員一人あたりの夏期一時金の平均支給額はほぼ二四万円台で並んでいるのであって、本件再審査命令の認定するような格差も生じていない。

更に、参加人組合と大阪赤十字病院の昭和五一年以降の夏期一時金についての対立は、昭和五一年は、昭和五〇年減額された一律部分七〇〇〇円の回復が争点であって、格差是正の主張は出ておらず、昭和五二年から昭和五三年にかけては、国家公務員の夏期特別手当が二・〇ケ月から一・九ケ月分に引き下げられたことに伴う月数部分の〇・一ケ月分削減が最大の対立点であって、格差是正や一律部分の回復は主張されておらず、昭和五四年は、病院の財政事情、加給金制度の廃止と並んで一律部分の回復も争点となったが、参加人組合の右一律部分回復の主張は、大阪赤十字病院の職員一人当たりの平均支給額が他の近畿一四病院のそれより二万円から四万円も多くなったため総額での増額要求がしにくくなったために考え出された主張にすぎないものであったし、格差是正の主張は出ておらず、昭和五五年は、前年の夏期一時金が月数部分二・〇ケ月及び一律部分一万〇五〇〇円となって、昭和四九年度の一律部分と加給金の合計一万一〇〇〇円との差が五〇〇円に迫ったため、「実質回復」と称して上積みを要求したが、ここでも格差是正は主張されておらず、昭和五六年に至り、参加人組合の機関紙に格差是正という表現が使われ始めたものの、昭和五六年も昭和五七年も団体交渉の席上では格差是正の主張はなかったのであり、このように、昭和五一年以降の大阪赤十字病院と参加人組合との夏期一時金交渉は、昭和五〇年に減額された一律部分の回復ないし近畿の各日赤病院との格差是正についての対立が続いていたという事実も存在しない。

そして、前年実績という言葉についても、大阪赤十字病院と参加人組合のいずれも、一律部分を前年の支給額より前年の増額分一五〇〇円上積みすることと理解していたものではなく、前年現実に支給された額と認識していたのである。

{2} <2>について

岡田回答書が出された経緯は次のとおりである。即ち、昭和五七年六月二三日大阪府地方労働委員会における調停が打ち切られ、大阪赤十字病院及び参加人組合に対し調停委員長見解(以下、「委員長見解」という。)が示された後、同月二四日大阪赤十字病院は午後四時から午後五時五分まで参加人組合と団体交渉を行い、この団体交渉において、参加人組合は、委員長見解を大阪赤十字病院は遵守すべきだと迫ったが、大阪赤十字病院は、「これ以上回答を変える考えはない。」として、「二か月+一万四〇〇〇円」をもって最終回答とし、続けて同日午後五時二〇分からの日赤労組との団体交渉でも同様の最終回答をした後、午後七時一五分から午後一〇時四〇分まで改めて組合三役と病院事務局が事務折衝のため協議し、その際、参加人組合の執行部が、調停委員長見解の遵守を要求してきた手前、昨年並の回答で妥結するためには組合内部の説得材料が必要であるとして、渋る岡田業務部長から右回答書を出させたものである。そして、参加人組合は、不満を残しながらも、昭和五七年夏期一時金を「二・〇ケ月+一万四〇〇〇円」で妥結することを決定したのであって、岡田回答書を受けて、右回答書に基づく協議を継続することを前提に、右金額で妥結することを決定したのではない。

また、本件再審査命令は、参加人組合が、同年六月二八日の臨時大会において、「二ケ月+一万四〇〇〇円」で妥結することを決定したと認定しているのであるが、「妥結する」とは「二ケ月+一万四〇〇〇円」だけで夏期一時金についての紛争を終了させることであって、上積みについては合意に達していなかったという認定とは矛盾する。なお、右認定は、岡田回答書に基づく協議を継続できるとして妥結することを決定したとするものであるが、岡田回答書に基づく協議とは、調停委員長見解についての協議であるから、夏期一時金上積み問題とは異なる。

{3} <3>について

六月二八日付け確認書調印の際、参加人組合から大阪赤十字病院に対し、右確認書の「期末勤勉手当」という文言を「夏期一時金」という文言に修正し、覚書の「勤務に支障のない範囲で」という表現を削除するよう主張があったが、右語句の修正以外には何ら主張もないまま、右修正がなされた他は、従来の完全妥結の際に作成されたのと同じ表現、同じ手続きの確認書が作成され、調印がなされている。そして、確認書は交渉の最後に締結される唯一最高の合意書であり、交渉経過に色々な主張があっても結局最後に合意した結論が表現されるものであって、唯一労使の合意内容を表した資料であるところ、右のとおり一五〇〇円の上積み問題については、修正要求もないまま従来の完全妥結の際に作成されたのと全く同じ表現、手続きの確認書が作成され、調印されているのであるから、これによって昭和五七年度夏期一時金は全部妥結したものというべきである。

なお、本件再審査命令は、右確認書調印の前に、参加人組合と大阪赤十字病院の間で折衝が行われ、参加人組合が交渉継続を前提に妥結するなどと述べ、大阪赤十字病院は「一応ここで妥結した」と述べたと認定しているが、組合は既に臨時大会において妥結を決議しているのであるから、ここで改めて折衝を行い新しいことを労使間で決めることは組合民主主義上あり得ないし、確認書調印に際して、両当事者が右認定のように異なる考えを表明する筈もない。

また、本件再審査命令は、参加人組合が、上積み問題について別途協議する旨を確認書において明確にするか、別個に覚書等において約定すべきであるのに、これを怠ったと評価されてもやむをえないとしながらも、大阪赤十字病院も、参加人組合が再三にわたって上積みについての交渉を続行すべき旨を申し入れているにもかかわらず、右確認書の調印に際してその旨を明確にすることなく、調印後に至って昭和五七年夏期一時金問題は全面的に解決したと主張しているのであるから、大阪赤十字病院の団体交渉に正当な理由があるとすることはできないとしているが、委員長見解が提示され、昭和五七年六月二四日の夜岡田回答書が参加人に手渡されて以降、同月二五日に例年行われる時限ストライキがあっただけで、六月二八日付け確認書の調印までに参加人組合が上積み問題についての団体交渉申入をした事実は全くない。

{4} <4>について

昭和五七年六月二九日午前、大阪赤十字病院は同年の夏期一時金を参加人組合と日赤労組の各組合員と非加盟職員に対して支給したが、同日午後、参加人組合は、ほぼ右一時金の支給が終了するのを待っていたかのように、岡田回答書に基づく委員長見解の別途労使協議についての団体交渉を申し入れ、さらに同年七月六日、八月四日、九月一〇日の三回にわたり委員長見解の別途労使協議を楯にして団体交渉を申し入れてきた。これに対して、大阪赤十字病院は、岡田業務部長及び田中彰職員課長が、一時金は六月二八日付け確認書により全額妥結済みであること、岡田回答書の「別途協議」を楯にしたこのような参加人組合の主張は、事態収拾のための説得材料という約束と違い、信義に背反するものであることを主張したものであって、岡田業務部長らは、「夏期一時金問題については、確認書により一応妥結することで終わっている。」などとはいっていない。また、このような「一応」という言葉のみから、上積み問題については未だ合意に達していないとすることはできない。

(三) 被救済利益に関する認定判断の誤り

本件再審査命令は、本件初審命令後も、大阪赤十字病院は誠意をもって団体交渉に応じてはいないとして、救済命令を発している。

しかしながら、本件不当労働行為救済の申立ては、単なる夏期一時金の要求獲得の枠を超えて、全日本赤十字組合連合会と原告との間の日本赤十字社職員給与要綱三五条に関する問題を有利に解決しようとする同連合会全体の運動方針にそって、その手段として行われたものであった。そして、本件初審命令以後、大阪赤十字病院は、昭和五七年夏期一時金に関し、昭和五九年一月二五日に団体交渉を行い、また、同年六月一九日参加人組合に対して本件初審命令に基づく団体交渉の申入れを行っているのであるが、団体交渉を求めて救済申立てを行った筈の組合が、これに関する限り、全く団体交渉に応じようとしないのであって、参加人組合は、被救済利益を喪失しているものといえる。

よって、本件再審査命令の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の主張は争う。

三  請求原因2に対する反論

(被告)

本件再審査命令は、労働組合法二五条、二七条及び労働委員会規則五五条の規定の手続に基づき適法に発せられた行政処分であって、処分の理由は別紙二に記載のとおりであり、その手続、認定判断に誤りはなく、適法なものである。

なお、請求原因2(一)(再審査手続の違法)についてであるが、従来、労働委員会は、労使関係の諸事情を実質的に処理する権限の所在からみて、工場・支店等法人の下部組織を名宛人とすることが救済命令の実効性を確保できると判断される場合、それらの下部組織にも被申立人適格を認めてきたのであるが、済生会中央病院事件控訴審判決(東京高裁昭和五六年九月二八日判決)が、法人の下部組織が経営する病院を名宛人とする救済命令は、法人には何ら影響を及ぼすところがないので、法人がその取消しを求める法律上の利益はないとして、被申立人適格を欠く法人の下部組織を名宛人とする救済命令を無効と解するものとみられる判示をしたため、被告が上告していたところ、本件再審査手続において、大阪赤十字病院が、本件初審命令は同病院を被申立人とした点に違法があると主張したので、被告は、右被申立人適格について抜本的に検討するため、審査の過程において大阪赤十字病院の他に原告も被申立人としておくことが必要と判断し、昭和五九年九月一九日開催の第九四三回公益委員会議において原告を本件再審査手続の当事者に追加することを決定したのである。そして、その後の審査には、原告も当事者として出頭させ、陳述させており、証拠を提出する機会も与えている。

そして、本件再審査中、右済生会中央病院事件について、最高裁が、企業主体である法人の組織の構成部分にすぎないものを救済命令の名宛人とすることは許されず、そのような者を名宛人とする救済命令は瑕疵があるものの、合理的解釈が可能な範囲内でできるだけ救済命令を適法有効なものと解することが不当労働行為制度の趣旨、目的にそう所以であることは否定できないところであり、右構成部分を名宛人とする救済命令は、実質的には右構成部分を含む当該法人を名宛人とし、これに対して命令を実現することを義務付ける趣旨のものと解するのが相当であるとの判決をした(最高裁昭和六〇年七月一九日判決)ため、被告は、右判決の趣旨に従って判断すると、被申立人適格を有する者は原告であり、本件初審命令は大阪赤十字病院を名宛人として発せられているが、実質的には右病院を含む当該法人たる原告を名宛人とし、これに対し命令の内容を実現することを義務付けるものと解するのが相当であり、右当事者追加後、大阪赤十字病院は形式上再審査申立人として表示されていたにすぎず、実質上は原告のみが再審査申立人として取扱われていたものとすべきであると考えて、本件再審査命令には再審査申立人として原告のみを表示し、大阪赤十字病院はあえて表示しなかったのである。

以上のとおり、本件初審命令は被申立人について瑕疵があったので、被告は、本件初審命令の主文を変更して、本件再審査命令主文のとおり命令を発したのであり、当事者追加の手続にも違法な点はなく、また、原告は右当事者追加により新たに義務を課される等実質的に不利益なところもないから、本件再審査手続に違法はない。

(参加人)

1 請求原因2(二)(団体交渉拒否の正当理由に関する認定判断の誤り)に対する反論

本件再審査命令は、参加人組合と大阪赤十字病院は昭和五七年夏期一時金の上積みについて後日別途協議することで合意したものと認定しているのであって、本件再審査命令がこれを上積みするとも別途協議するとも認定していないとの理解の下にする、原告の、大阪赤十字病院の団体交渉拒否には正当な理由があるとの主張は、もとより無意味なものであるが、これを基礎付ける各点の主張も、以下に述べるとおり理由がない。

(一) (1)について

昭和五七年度の夏期一時金の上積み問題については、これを別途協議する旨の岡田回答書が参加人組合に交付されており、右別途協議するということの意味は、大阪赤十字病院の有額回答部分と参加人組合の主張する上積み部分を分離し、右有額回答部分についてとりあえず妥結しても、上積み部分については協議を続けるという内容を有するものである。そして、後記のとおり、六月二八日付け確認書の調印は、当事者双方とも右岡田回答書の存在を充分承知のうえ、右確認書の調印によっても、上積み問題については、以後も団体交渉を持つ必要が残るものとして行われたものである。

(二) (2)について

(1) {1}について

昭和五〇年の一律部分の減額により、大阪赤十字病院における夏期一時金は、労使双方が比較対象としている他の近畿赤十字病院と月数部分が同じで一律部分が低いものとなり、したがって、一時金の増加率としても低くなって、これらの病院との格差がこの時期以降毎年継続的に生ずるようになった。そこで、参加人組合は、昭和五一年以降、一貫して格差是正を求めてきたのであるが、右格差是正の要求には、昭和五〇年の減額の回復のみならず、他の近畿赤十字病院との格差是正の意味も含まれるようになっていたのである。これに対して、大阪赤十字病院も、昭和五一年以降昭和五六年までの夏期一時金については前年度の一律部分に上積みした金額を支給することによって、参加人組合の要求にある程度答えてきていたのであり、また、昭和五四年夏期一時金の交渉の際に、格差是正の要求についてその精神を汲んで対処していきたいとの回答書を参加人に交付し、本件紛争の前年にあたる昭和五六年の夏期一時金等について確認書を交わす際にも、中矢喜男管理局長が参加人に「今後近畿日赤病院との格差是正の努力はしていく」と回答するなど、右格差について充分に認識し、その是正を参加人組合に約束もしていたのである。そして、昭和五七年の上積み要求は、このような背景の下に出された、昭和五〇年以来の他の近畿日赤病院との格差是正のための要求であり、昭和五七年の夏期一時金の交渉の過程でも、大阪赤十字病院は、参加人組合が、この格差是正について強い要求(具体的には一律部分を前年実績より上積みすること)を持っていることを文書で議事確認し、団体交渉の席上で「上積みの気持ちを持っていた。」「病院の姿勢としては上積みしていく考えだ。」とも答えているのである。

なお、原告は、夏期一時金の支給額の平均額そのものについて、大阪赤十字病院と他の近畿赤十字病院との間に格差はないとして、格差の存在を否定するが、平均支給額の相違は年齢、職種など算定基礎の相違から生じるものであって、これを比較する意味は薄い。

(2) {2}について

昭和五七年六月二四日の団体交渉では、参加人組合が大阪赤十字病院の有額回答を上積みなしで了承したものでないのはもちろんのこと、大阪赤十字病院においても、本社の承認が得られなかったことを最も大きな理由として上積みが不可能との態度は崩さなかったものの、この件についての話合いを今後は拒否するという組織的な申し合わせをしていたわけではなく、この件について以後も団体交渉を持つ必要があることは労使双方とも認識していたのであり、その結果、右団体交渉を受けて、引き続き事態を打開するために小団交が行われ、段階的解決のための妥協の産物として前記のとおりの岡田回答書が作成されたのである。その際の参加人組合の運動の盛り上がりや要求の切実さ、更に、正当性を認識してもらった委員長見解が出た直後であるということからしても、参加人組合が右小団交において病院の有額回答をすぐに了解するような状況にはなく、こうした中で、参加人組合の執行部が一般組合員を宥めるために原告の主張するような見せかけの文書を経営者と一緒になって作成する筈はない。そして、参加人組合は、不満はあるがやむを得まいということで、一般組合員にも事態を知らせて、臨時大会で右回答書に従って妥結することを決定したのである。

(3) {3}について

本件では、昭和五七年六月二八日付け確認書調印の僅か三日前の六月二四日に前記岡田回答書が交付され、右確認書調印までに右回答書の効力を否定するような新たな合意その他の事情も全くないまま、両当事者が右回答書の存在を充分承知のうえ、当然のことながら右回答書を破棄するような言動もなく、右確認書に調印したのであって、このような重要な回答書があったからこそ、右確認書は、上積み問題の別途協議についてとりわけ留保条件を付記することもなく、調印がなされたものである。更に、右確認書調印前に、参加人組合は右回答書では不満であることを示す抗議の意味もこめたストライキを行い、確認書調印時にも上積み問題の別途協議について念を押しており、大阪赤十字病院も右回答書作成の翌日直ちに本社に承認手続きに行き、上積み問題と切り離して回答部分を妥結することに向けての行動を起こしており、参加人組合も、直ちに別途協議の開始を大阪赤十字病院に申し入れるとともに、大阪府地方労働委員会に右経過を報告しており、更に、大阪赤十字病院は、その後の参加人組合の団体交渉申入れに対し、その内容は動揺しながらも、「委員長見解は労使で残るものであり、協議していく」と述べているのであって、右確認書が調印された後も、上積み問題が未解決のものとして残されたものであることは明白である。

(4) {4}について

昭和四七年七月六日及び八月四日の団体交渉において、大阪赤十字病院は、一応妥結ずみとのあいまいな言動を行いながらも、組合の追及により「委員長見解は労使間で残るものであり、協議はしていく。」としたのであって、このことからも、大阪赤十字病院が委員長見解について話し合いを続けていくつもりであったことを窺い知ることができる。そもそも、六月二八日付け確認書によって、昭和五七年夏期一時金が全部妥結ずみであるとしたならば、その調印後、大阪赤十字病院が二回も団体交渉に応ずることはあり得ない。

2 請求原因2(三)(被救済利益に関する認定判断の誤り)に対する反論

参加人組合は、大阪赤十字病院が昭和五七年八月四日までは少なくとも形の上では続けてきた団体交渉を、それ以降、同年の夏期一時金は既に妥結ずみであるとして協議に応ずることさえしなくなったため、本件不当労働行為の救済申立てを行ったものであり、本件初審命令後も、大阪赤十字病院は、六月二八日付け確認書によりすべて終了しているとの態度で一貫していて、団体交渉を申し込んだといっても、説明や論点整理に限り、それも大阪赤十字病院が勝手に持ち出した一時金決定の原則のみを対象とするものであり、上積み問題について誠実に団体交渉を行う態度とは明瞭に相反するものであって、このような大阪赤十字病院からの団体交渉申入れを拒んだからといって、これを参加人組合の団交拒否などとすることはできない。

また、原告は、参加人組合が、昭和五七年夏期一時金に関する紛争を、日本赤十字社職員給与要綱三五条の問題として位置付けていることを根拠として、参加人組合には被救済利益がないと主張するが、そもそも、労働組合が様々な闘争をどのように位置付けるかは、労働組合の自主的判断に委ねられるべきことであって、その把握の仕方を攻撃することは逆に支配介入である。それどころか、右紛争が生じたのは、大阪赤十字病院が「本社承認」を持ち出してきたことに大きな要因があり、団体交渉を病院に委ねながら、本社承認を、交渉を伸展させない理由として持ち出されたら、組合側は、まともな団体交渉はできない。したがって、参加人組合にとって、昭和五七年夏期一時金の上積みも重要な案件の一つとしながら、一時金の交渉、決定方法を明確にさせなければならなくなったことは、極めて当然かつ必要不可欠のことである。

第三  証拠<省略>

理由

一  請求原因1については当事者間に争いがない。

二  請求原因2について判断する。

1  再審査手続の違法の主張について

原告は、被告が、原告を再審査申立人として追加する旨の決定をしたこと、本件初審命令を取消さずに、原告を再審査申立人として本件再審査命令を発していることを本件再審査手続の違法として主張するので、この点について検討する。

<証拠>によれば、原告は日本赤十字社法により設立された法人であり、大阪赤十字病院は原告の下部組織である大阪府支部が設置する一医療施設であることが認められる。そして、大阪府地方労働委員会は、昭和五九年一月一三日付けで大阪赤十字病院を名宛人として本件初審命令を発し、これに対して大阪赤十字病院が再審査を申立て、被告は同年九月一九日の公益委員会議において原告を再審査申立人として追加する旨決定し、同月二二日付けでその旨を原告に通知したうえで、原告のみ再審査申立人として表示して、本件再審査命令を発していることは、右請求原因1において主張されている争いのない事実であり、更に、<証拠>によれば、被告は、大阪赤十字病院を再審査申立人として、同年五月二五日に第一回調査を行い、同年七月三日及び同月一三日の二回にわたり審問を行ったが、同年八月二日再審査被申立人たる参加人組合から原告を当事者として追加するよう申立がなされたため、右当事者追加について同年九月四日第二回調査を行ったうえ、前記追加決定をなしたが、これに続く同年一〇月五日の第三回調査期日及び同年一一月一〇日の第四回調査期日においても、原告の再審査申立人としての出頭がなされないまま、大阪赤十字病院を再審査申立人として手続を進めた後、原告が大阪赤十字病院の代理人森恕及び鶴田正信を原告の代理人として出頭させた同日の第三回審問期日において、右両名を再審査申立人たる原告の代理人として許可して、原告を再審査申立人として手続を行い、同期日に結審していることが認められる。

ところで、労働組合法二七条及び七条の規定にいう「使用者」とは、法律上独立した権利義務の帰属主体であることを要し、法人の組織の構成部分にすぎないものは、右の「使用者」には該当せず、したがって、救済命令が法人の構成部分を名宛人として発せられた場合、右命令は、労働組合法二七条及び七条の規定する使用者に該当しない者を名宛人とする瑕疵を有するということになる。しかしながら、このような救済命令は、実質的には右構成部分を含む当該法人を名宛人とし、右法人に対して命令の内容を義務付ける趣旨のものと解するのが相当であり、したがって、法人の構成部分を名宛人として発せられた初審命令に対する再審査の場合にも、中央労働委員会は、右瑕疵を理由に直ちに初審命令を取消すのではなく、右初審命令を、右構成部分を含む当該法人を名宛人とし、右法人に対して命令の内容を義務付けるものと理解して、再審査申立が右構成部分からなされていても、これを再審査申立人とせず、右構成部分を含む当該法人を再審査申立人として取り扱って、再審査手続を行い、再審査命令を発するのが相当というべきである。

本件においても、大阪赤十字病院は、原告の下部組織たる大阪支部の一施設にすぎず、法律上独立の権利義務の帰属主体ではないから、本件初審命令は、労働組合法二七条及び七条に規定する使用者にはあたらないものを名宛人とする瑕疵を有するということになるが、右命令は実質的には原告を名宛人とし、原告に対して前記初審命令の内容を実現することを義務付ける趣旨のものと解するのが相当であり、被告は、大阪赤十字病院を再審査申立人とせず、原告を再審査申立人として取り扱って、再審査手続きを行い、再審査命令を発すべきものということになる。

そして、前記のとおり、本件再審査命令は原告を再審査申立人として発せられており、この点では相当なものといえるが、その再審査手続には、<1>昭和五九年一一月一〇日の第四回調査期日まで、原告を再審査申立人とせず、大阪赤十字病院を再審査申立人として手続きが進められている点、<2>原告を再審査手続きに関与させる手続として、これを大阪赤十字病院とは別個の当事者として加える場合に行われるべき当事者の追加決定がなされている点で、やや問題があるものといえる。しかしながら、右の各点が仮に本件再審査手続における瑕疵といい得るとしても、まず、<1>の点については、本件再審査手続きで争われていたのは大阪赤十字病院の事実行為による不当労働行為の成否であって、再審査申立人が大阪赤十字病院とされるか原告とされるかによって右争点に変化が生じるものではなく、しかも、大阪赤十字病院は原告の構成部分としてこれと一体の関係にあるのであるから、右第四回調査期日まで原告が再審査申立人として再審査手続に関与しなかったことによる原告の手続上の不利益は比較的軽微なものといい得るところ、結局原告は右第四回調査期日までの大阪赤十字病院の代理人をそのまま原告の代理人として選任し、右第三回審問期日に右代理人が原告の代理人として許可されて、原告を再審査申立人とする手続に移行しているのであるから、これによってこの点の瑕疵は治癒されたものというべきであり、また、<2>の点については、原告の法律上の利益に関係がないものであって、これを本件再審査命令の取消事由として主張することはできないというべきである。

したがって、原告が主張する本件再審査命令の違法は、本件再審査命令の取消事由となり得ない。

2  団体交渉拒否の正当理由に関する認定判断の誤りの主張について

原告は、六月二八日付け確認書の調印により、参加人組合と大阪赤十字病院との昭和五七年夏期一時金交渉は全部妥結しているのであって、大阪赤十字病院が同年九月一〇日以降、右一時金の上積みについての参加人組合との団体交渉を拒否していることには、正当な理由があると主張するので、この点について検討する。

<証拠>によれば次の各事実が認められ、右認定に反する<証拠>はいずれも措信し難く、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一)  参加人組合は大阪赤十字病院に勤務する職員により組織される労働組合であり、原告が設置する各地の医療機関に存する労働組合の連合体たる全日本赤十字組合連合会(以下、「全日赤」という。)に加盟していた。

同病院には、参加人組合とは別に同病院に勤務する職員により組織される労働組合として、日本赤十字労働組合大阪赤十字病院支部(以下「日赤労組」という。)があった。

(二)  原告の設置する医療施設の経費は当該施設の経営に伴う収入をもって充てるものとされており(日本赤十字社医療施設特別会計規則三三条)、いわゆる独立採算制がとられていた。しかし、原告の有給職員の給与(退職・死亡一時金の給与を除く。)に関する事項については日本赤十字社職員給与要綱が定められており、これにより、俸給や諸手当の額の大半は社長の決定事項とされていたが、期末手当及び勤勉手当の額は財政の範囲内で社長の承認を得て所属長が定めるものとされていた(同要綱三五条)。そして、原告と全日赤との間には、医療施設職員の労働条件に関する団体交渉は、社長の決定事項については原告と全日赤との間で行い、一時金等医療施設の所属長たる施設長の決定事項については施設と単位組合との間で行う旨の労働協約が結ばれており、参加人組合の組合員の一時金に関する団体交渉は大阪日赤病院と参加人組合との間で行われていた。また、日赤労組の組合員の一時金に関する団体交渉は原告と日赤労組の間で行われていた。

(三)  大阪赤十字病院に勤務する職員の夏期一時金は、昭和五三年までは、各職員の算定基礎額(いずれも原告の本社において定められる俸給、調整手当、扶養手当及び役付手当の月額合計)に一定率を月数として乗じた金額により合計額が定められる期末手当及び勤勉手当(以下、「月数部分」という。)と、各職員に一律の金額が定められる一律支給と、算定期間中の欠勤日数を区分してその区分毎に一定の金額が定められる精励加給金とから構成されていたが、昭和五四年からは右精励加給金が廃止され、これに相当する部分は一律支給に吸収されて、月数部分と一律支給から構成されるようになった(以下、右いずれの構成についても、月数部分を除く部分を「一律部分」という。)。そして、近畿地方には、大阪赤十字病院以外にも、全日赤加盟の労働組合の存する原告の病院や血液センターが幾つかあったが、これらの病院においても、夏期一時金は、大阪赤十字病院におけると同様な月数部分と一律部分から成っていた。

ところで、大阪赤十字病院の夏期一時金は、昭和四九年が月数部分一・七か月、一律支給九〇〇〇円及び精励加給金二〇〇〇円(以下、昭和四九年以降、昭和五三年までの夏期一時金は、この順序で「一・七か月+九〇〇〇円+二〇〇〇円」のように表す。)であったのが、昭和五〇年は「二か月+二〇〇〇円+二〇〇〇円」となり、月数部分は〇・三か月分増加したものの、一律部分において七〇〇〇円の減額となった。他方、右大阪赤十字病院以外の近畿地方の全日赤加盟組合が存する原告の病院等では、昭和五〇年の夏期一時金は、月数部分において大阪赤十字病院と同様前年の一・七か月から二・〇か月に増額されたが、一律部分が減額されたところはなく、かえって前年より増額されたところもあったため、大阪赤十字病院の夏期一時金の一律部分は、近畿地方における全日赤加盟組合が存する原告の病院等の中で最も低いものとなり、そのうちの大半と数千円から一万円近い格差が生じることとなった。

(四)  そこで、参加人組合は、昭和五一年以降の夏期一時金交渉では、一貫して、昭和五〇年の一律部分減額の回復あるいは前記大阪赤十字病院以外の近畿地方の全日赤加盟組合が存在する原告の病院等との一律部分における格差の是正(以下、これを単に「格差是正」という。)を論拠に、一律部分の前年よりの増額を要求してきたが、後記のとおり毎年右増額が行われて一律部分の額が昭和四九年のそれを越えるに至った昭和五五年の前後からは、格差是正を中心に据えて右増額の要求を続けた。そして、昭和五一年以降の大阪赤十字病院の夏期一時金は、昭和五一年が「二か月+五〇〇〇円+二〇〇〇円」、昭和五二年が「二か月+六〇〇〇円+二〇〇〇円」、昭和五三年が「二か月+七〇〇〇円+二〇〇〇円」、昭和五四年が月数部分二か月、前記精励加給金を吸収した一律支給一万〇五〇〇円(以下、昭和五四年以降の夏期一時金は、この順序で「二か月+一万〇五〇〇円」のように表す。」)、昭和五五年が「二か月+一万二五〇〇円」、昭和五六年が「二か月+一万四〇〇〇円」となった。

なお、その間、参加人組合は、昭和五四年夏期一時金交渉において、同年六月二四日、田中職員課長に「五〇年当時の回復については、その精神を汲んで対処していきたい。」との回答書を出させており、また、昭和五六年夏期一時金交渉においても、中矢管理局長に「格差是正について検討していく。」との口頭による回答を出させている。

(五)  昭和五七年の夏期一時金交渉は次のような経過をたどった。

(1) 参加人組合は、昭和五七年五月二〇日大阪赤十字病院に対し、「二・五か月+五万円」の夏期一時金の支給、七日間の夏季有給休暇の保障等を求める要求書と右要求書の要求事項等についての団体交渉を求める申入書を提出した。これに対して大阪赤十字病院は、同月三一日、多額の累積赤字を抱える等して病院の財政は窮状にあり、夏期一時金の額について目下検討中であるとする回答書を出すにとどまった。

(2) 同年六月九日、右申入書に基づく第一回目の団体交渉が行われたが、右団体交渉においても、昭和五七年夏期一時金について、参加人組合が前記要求書のとおり「二・五か月+五万円」を要求したのに対して、大阪赤十字病院は、院長が一時金額を決定するについて社長の承認が必要であるほか、病院の財政状態が悪いため夏期一時金の資金は全額銀行より借入れる予定のところ、右借入れについても支部長が社長に申請しその委任を受ける手続きが必要となる関係上、事前に本社に打診してその了解を得られる見通しを立てたうえで回答額を決めようと考えていたことから、「本社の承認を得て銀行から夏期一時金の資金を借り入れる必要があるため、本日のところは有額回答はできないが、昨年実績を尊重し解決のために努力する。」旨回答するにとどまり、具体的な回答額は示さずに終わった。

(3) 同月一一日第二回団体交渉が開催され、大阪赤十字病院は夏期一時金額を「二か月+一万四〇〇〇円」と回答したが、これに対して参加人組合は「昨年実績とは昨年の夏期一時金額『二か月+一万四〇〇〇円』に昨年の増額分一五〇〇円を上積みした額である。上積み以外に解決の途はない。」と主張したため、大阪赤十字病院はこれ以上の上積みは困難であるが、同月一四日に上京して本社と相談すると述べた。

そして、同月一五日第三回団体交渉が開催され、大阪赤十字病院は「一四日に本社に行ってきたが回答額は変わらない。」旨述べ、以後同月一六日、一八日及び二一日と団体交渉が重ねられたが、「病院としては上積みしたい気持ちはあるが、本社の承認が得られる見込がない。」旨説明して回答額を変えず、これに対して参加人組合も「病院は昨年はっきりと格差是正を約束しており、上積みしなければ夏期一時金問題は解決しない。」旨主張して譲らず、交渉は平行線をたどった。

なお、その間、大阪赤十字病院は中矢管理局長と田中職員課長が同月一四日と同月一七日に上京して、原告の本社の人事部長等と夏期一時金について会談しているが、右いずれの会談においても、中矢管理局長らが参加人組合の要求の厳しさを述べ、正常な医療活動維持の方途を相談する等して上積みの可能性について探りをいれるのに対して、本社側は大阪赤十字病院の多額な赤字を抱える財政状況を指摘し、また今後の病院経営の難しさや全国の赤十字病院の夏期一時金の状況等を説明する等して、引き締めた対応の必要を強調するため、右中矢管理局長らは上積みについての具体的な話しは切り出さずに終わっている。

(4) 参加人組合は、右のとおり大阪赤十字病院との団体交渉が膠着状態に陥ったことから、同月二一日大阪府地方労働委員会に昭和五七年夏期一時金及び夏休み等に関する紛争についての調停申請を行ったが、調停案がまとまらないまま、右調停は同月二三日未明打ち切られた。しかし、その際、同労働委員会の井戸調停委員長は、参加人組合と大阪赤十字病院の双方に、「労使双方は、組合が要求している夏季一時金について、病院の回答額に組合員一人一律一五〇〇円(昨年度引き上げ額と同額)を増額する方向で協議して決定すること。労使双方は、夏季休暇問題について、自主交渉によって円満解決すること」との見解を示し、右見解の意向を汲んで速やかに事態を収拾するよう要望した。

(5) そこで、大阪赤十字病院の二本杉皎院長、中矢管理局長及び田中職員課長が直ちに上京し、原告の本社の人事部長や衛生部長らと面接して、委員長見解が出されたことを報告したが、ここでも、前同様大阪赤十字病院の経営状態や他の日赤病院の夏期一時金妥結状況等が話題の中心となり、二本杉院長らは上積みが承認される見込みはないであろうとの感触を得たことから、委員長見解への対応については相談しないまま帰った。

(6) そして同月二四日午後四時から午後五時過ぎまで、参加人組合と大阪赤十字病院は団体交渉を行ったが、この交渉において、大阪赤十字病院は、「昨日、委員長見解をもって上京し、本社人事部長等と相談のうえ検討したが、病院としては回答額を変える積もりはない。これが最終回答である。病院が委員長見解を受け入れられないのは、病院を取り巻く経営環境が厳しく、本社の承認が得られないからだ。この回答によって解決したい。『二か月+一万四〇〇〇円』で同月二六日に妥結できれば、同月二九日に支給する。」旨述べたのであるが、これに対し参加人組合は、右大阪赤十字病院の回答は委員長見解を無視するものであって了承できないとし、委員長見解に従って一五〇〇円の上積みについて更に交渉して打開策を検討すべきであると迫り、結局、大阪赤十字病院も、同月二四日夜または同月二五日に交渉人員を縮小して話合いを継続することを了承した。

なお、この団体交渉の席上、大阪赤十字病院は、夏期一時金額決定についての社長に対する正式な承認申請は未だ行っていないことを参加人組合に明らかにしている。

(7) 引き続き、病院は、日赤労組と団体交渉を行い、夏期一時金額について右参加人組合に対するのと同様の回答を行った後、右参加人組合との話合い継続の合意にしたがって、同日午後七時一五分ころから、岡田業務部長及び田中職員課長が組合三役と打開策を話し合った。その席で、参加人組合は、ストライキを準備していることを述べたうえで、本社人事部長が一時金は所属長の判断の下に申請するべきであるとの見解を示していることを指摘して、大阪赤十字病院が一時金額について社長に対する正式な申請もせず、本社の承認が得られないことを理由に委員長見解を拒否することには疑問があり、今回の回答で昭和五七年夏期一時金の交渉を打切りとすることはできないとし、「二か月+一万四〇〇〇円」については妥結したものとして支給する一方、委員長見解についてはこれと切り離して協議を継続するよう求めた。これに対して大阪赤十字病院は、右要求では「二か月+一万四〇〇〇円」の支給が内払ということになるが、全部妥結したうえでなければ一時金の支給はできないとして、応じ難いとしていたが、参加人組合から、「二か月+一万四〇〇〇円」を妥結する確認書には、委員長見解に基づく協議継続については記載せず、これについては別個に文書を作成するとの提案を受け、当初は、委員長見解に基づく協議継続の文書を作成することは後に問題を残すとして、渋っていたものの、更に、参加人組合から「収拾していくには一定の材料がいる。事態収拾の道を作ってくれ。」、「書いたからといって拘束することはない。」、「一五〇〇円どうのこうのではなく足跡を残しておきたい。」等と説得されて、結局、「組合のビラに回答書を載せないようにしてほしい。」と参加人組合に要望して、「明日配布する組合のビラは考慮する。」との回答を得たため、「昭和五七年度夏期一時金等における六月二三日付の地方労働委員会調停委員長見解については別途労使協議していく。」という内容の岡田業務部長の回答書を作成し、これを参加人組合に交付して右話合いは午後一〇時四〇分ころ終了した。

(8) 同月二五日、参加人組合は大阪赤十字病院が本社の承認を得られないとの理由で委員長見解に従わず、従前の回答を変えないことに抗議して時限ストライキを行った。

(9) 同月二八日、参加人組合は臨時大会を開催して、委員長見解については岡田回答書に基づく協議を続けることとして、大阪赤十字病院の「二か月+一万四〇〇〇円」の回答については妥結することを決定した。

(10) 同日、大阪赤十字病院と参加人組合は、昭和五七年夏期一時金として「二か月+一万四〇〇〇円」を同月二九日に支給する旨の六月二八日付け確認書に調印したが、右確認書においては、上積みについては何ら触れられていなかった。

(11) 大阪赤十字病院は、同月二五日付けで「二か月+一万四〇〇〇円」の夏期一時金について社長に対する承認申請をなしていたが、同月二八日付けで右承認が与えられ、同月二九日職員に右金額の夏期一時金を支給し、参加人組合の組合員を含む大阪赤十字病院職員はこれを受領した。

(12) 同日、参加人組合は大阪赤十字病院に対し、同月二四日の団体交渉、岡田回答書及び六月二八日付け確認書交換時における申し入れ等に基づき、委員長見解の別途労使協議について団体交渉を求める旨の団体交渉申入書を提出した。

大阪赤十字病院は、同年七月六日参加人組合との団体交渉に応じたが、この団体交渉で、参加人組合が一五〇〇円の上積みを要求したのに対して、昭和五七年一時金問題は六月二八日付け確認書により解決しているものであると主張した。しかし、参加人組合が、「二か月+一四〇〇〇円」は岡田回答書を受けて妥結したものであり、委員長見解については継続して協議し解決を図るものとして残るものであると迫った結果、大阪赤十字病院も「委員長見解は労使間で残るものである。」と認め、一五〇〇円の上積みについては本社が承認しないことが明白であり、申請する積もりはないとしつつも、引き続き協議していくことについては了承し、更に同年八月二四日に団体交渉を開催することとした。

そして、同日、参加人組合の三役と岡田業務部長及び田中職員課長が交渉をしたが、双方とも右同年七月六日の団体交渉と同様の態度を堅持し、何ら伸展を見ずに終わった。

(13) 同年九月一〇日、再び、参加人組合から大阪赤十字病院に対し、委員長見解の別途協議についての団体交渉の申入れ書が提出されたが、大阪赤十字病院は、同日、電話で、昭和五七年夏期一時金については既に妥結済みであると回答し、右団体交渉に応ずることを拒否した。

(14) そこで、参加人組合は、同年一〇月七日、本件不当労働行為救済申立をなした。

右に認定した事実に基づき、前記原告の主張につき判断する。

前記(五)(10)に認定したところによれば、六月二八日付確認書には「二か月+一万四〇〇〇円」の支給が仮払となることを示すような記載はなく、その文面のみからすれば、右確認書は昭和五七年夏期一時金を全部妥結するものといえなくもない。

しかしながら、前記(五)(7)に認定したところによれば、右確認書の調印は、昭和五七年六月二四日の岡田業務部長及び田中職員課長と参加人組合の三役との協議に基づくものと認めることができるから、右確認書の調印によって昭和五七年夏期一時金が全部妥結したものといえるかどうかは、その文面のみによって決まるものではなく、右協議の経緯に即して判断されなければならない。

しかるところ、右協議は、これに先立つ同日の団体交渉で、大阪赤十字病院が「二か月+一万四〇〇〇円」をもって最終回答であるとし、参加人組合が右回答は委員長見解を無視するもので了承できないとして対立する状況の下で、その打開策を検討する場として設けられ、その席で、参加人組合が「二か月+一万四〇〇〇円」の支給と切り離して委員長見解の協議を継続することを求め、大阪赤十字病院が全部妥結しなければ一時金は支給できないとしてこれを拒むうちに、更に、参加人組合から、委員長見解の協議継続については確認書には記載しないで別個の書面を作成することが提案されて、議論は右別個の書面の作成如何に移り、結局、大阪赤十字病院が参加人組合に押し切られる形で、岡田業務部長が委員長見解の協議を継続する旨の岡田回答書を作成して参加人組合に交付し、同日の協議を終了しているのであって、右にみた経過の限りでは、右の協議においては、新たに参加人組合から出された「二か月+一万四〇〇〇円」の支給とは別個に委員長見解の協議を継続するとの要求については結論に達しないまま、委員長見解は別途協議を継続するとの岡田回答書が交付される一方、右協議については何ら記載しない確認書を交換することとするという、右協議継続について、いずれにも受け取れるような書面上の処理が相互に了解されたものというべきであり、したがって、右確認書の調印によって、昭和五七年夏期一時金を全部妥結したものとするか、これを一部妥結として委員長見解については別個に協議を継続するものとするかについても、曖昧なまま残されたものといわざるを得ない。

ただ、右昭和五七年六月二四日の協議において、参加人組合が委員長見解の協議継続の書面化を大阪赤十字病院に説得するに際し、「収拾していくには一定の材料がいる。事態収拾の道を作ってくれ。」、「書いたからといって拘束することはない。」、「一五〇〇円どうのこうのではなく足跡を残しておきたい。」などと述べている点は、一見、参加人組合が実際は上積みについては最早断念し、ただ名目的な書面の作成のみ求める趣旨と受け取ることができないでもない。しかしながら、前記(四)に認定したとおり、参加人組合は、昭和五一年以来、昭和五〇年の一律部分減額の回復あるいは格差是正を主張して昭和五六年まで毎年大阪赤十字病院に夏期一時金の上積みをさせてきており、また昭和五四年には田中職員課長に、昭和五六年には中矢管理局長に、それぞれ一律部分の格差是正を約束させているという経過があり、昭和五七年夏期一時金の上積みは、参加人組合にとって単なる同年の一時金額の問題というにとどまらず、将来にわたり、格差是正のための上積みは参加人組合と大阪赤十字病院との間の了解事項であると主張して、夏期一時金交渉を有利に展開させるためにも、是非とも実現させたい要求であったことは想像に難くないこと、前記(五)(3)及び(6)に認定したとおり、参加人組合は昭和五七年六月一一日に行われた同年夏期一時金の第二回団体交渉で「二か月+一万四〇〇〇円」という前年同額の回答がでるや上積みが妥結の必須条件であると主張し、その後同月二四日の協議の直前の団体交渉まで右主張を一貫させて、この点で譲歩する態度は少しも窺えないこと、更には、前記(五)(4)のとおり、右協議の前日に委員長見解が出されたことによって、上積みを求める状況としては、それ以前より参加人組合に有利なものになっているということができ、右協議の段階で、参加人組合が、従来の上積みを求める態度の変更を余儀なくされるような理由も見当たらないことなどに鑑みれば、参加人組合が右協議に至って上積みを断念したと考えることは極めて困難であり、前記参加人組合の大阪赤十字病院に対する説得文言が、「二か月+一万四〇〇〇円」で全部妥結とするか、右金額の支給とは別に委員長見解の協議を継続するかの結論を曖昧にしたまま、参加人組合が大阪赤十字病院に委員長見解についての協議継続の書面の作成を説得する過程で述べられたものであることも併せ考えれば、これを大阪赤十字病院説得のために用いられた方便と理解することが自然というべきである。そして大阪赤十字病院も、右の経過を知悉していたと考えられるから、参加人組合の右真意を察知していたものと推認することができる。

そうすると、前記説得文言の点を加味しても、やはり、右昭和五七年六月二四日の協議においては「二か月+一万四〇〇〇円」で全部妥結するとの了解には未だ達していないということができ、したがって、六月二八日付け確認書の調印によって昭和五七年夏期一時金が全部妥結したものということはできず、上積みの問題は未解決のまま残されているというべきである。

よって、大阪赤十字病院の前記団体交渉拒否は正当な理由のないものであり、労働組合法七条二号に該当する原告の不当労働行為というべきである。

3  被救済利益に関する認定判断の誤りの主張について

次に、原告は、本件不当労働行為救済申立は、参加人組合と大阪赤十字病院の間の団体交渉事項の枠を超えた、原告と全日赤間の問題を、有利に導く目的の下になされたものであって、本来の不当労働行為制度による救済を求めたものではなく、本件初審命令後、大阪赤十字病院は、参加人組合と団体交渉を行い、その後も同病院側から団体交渉の申入れをしたが、参加人組合がこれに応じることを拒否しているのであって、参加人組合には被救済利益がないと主張するので、この点について検討する。

<証拠>によれば、次の各事実がみとめられ、右認定に反する証拠はない。

(一)  本件初審命令が発せられた後、参加人組合は、昭和五九年一月一四日付けで大阪赤十字病院に対し、本件初審命令は昭和五七年夏期一時金について労使交渉により早期解決を図ることを命ずる趣旨であるとして、右一時金の上積み問題の具体的内容について同月一八日までに団体交渉を行うよう求める文書を提出し、また、同月二四日付けで大阪府地方労働委員会に斡旋申請を行った。

(二)  これに対して大阪赤十字病院は、同地方労働委員会の斡旋は拒否したが、同月二五日参加人組合との団体交渉を開催した。しかしながら、この団体交渉では、参加人組合が、本件初審命令の命ずる団体交渉とは、上積みについての交渉であると主張するのに対し、大阪赤十字病院は、本件初審命令は上積みを命じたものではなく、参加人組合の解釈を前提とする交渉には応じることはできないとし、この点で対立したまま、交渉は物別れに終わった。

(三)  被告が、昭和五九年五月三〇日付けで大阪赤十字病院に対して本件初審命令の履行勧告を行ったところ、大阪赤十字病院は参加人組合に対し、同年六月一九日付けで、「上積みをしないことは、病院の経営状況、他の日赤病院の支給状況や財源問題、民間企業、公務員等の支給状況等からして、妥当な判断であったと確信しており、その後の労働情勢や経営環境からいっても、正しかったと確信しているので、これらの論議を団体交渉において説明したい。」との旨の「初審命令にもとづく団体交渉の申し入れについて」と題する文書を提出した。これに対し、参加人組合は、同月二六日付けで、「病院の申入れは上積みはしないとの結論を決めて、ただその理由を説明するというものであって到底団体交渉といえるものではない」とし、なお「病院の今回の提案は、一切の上積みをしないとの態度を変更して、団交における協議の結果上積みを認めて妥結する可能性があるとの趣旨かどうかの回答を求め、その回答によって右提案が初審命令に沿った団交に値するものか否かの判断を行ったうえで、更に回答する用意がある」とする旨の文書を大阪赤十字病院に提出した。

(四)  その後も、大阪赤十字病院は、同年七月二日付け及び同年八月一五日付けで、それぞれ参加人組合に団体交渉を申し入れる文書を提出し、その中で、大阪赤十字病院は、「単に病院の主張を説明するだけでなく、組合側の主張の論拠についても充分説明を聞く」旨も述べているが、その趣旨は、大阪赤十字病院の前記同年六月一九日付け文書で、上積みをしないことの論拠として述べられているような要素を一時金決定原則と称し、一時金は右原則に従って決定されるべきであるとして、団体交渉では、右原則に依拠した論議を尽くすというものであった。そして、大阪赤十字病院は、団体交渉を行っても、上積みをしないとの結論は変える余地のないものと考えており、その旨を参加人組合にも表明していた。これに対して、参加人組合は、右のような大阪赤十字病院の団体交渉申入れは、上積みしないことを前提とするものであって、誠意ある団体交渉の申入れとはいえないとし、上積みの方向での団体交渉でなければ応じられないとの態度を堅持した。更に、大阪赤十字病院は、参加人組合に対する昭和五九年八月二八日付け文書でも、「団体交渉に応ずるよう、重ねて申し入れる」旨述べているが、その態度に変更はなく、その後も、参加人組合と大阪赤十字病院との昭和五七年夏期一時金の上積みに関する団体交渉は行われていない。

(五)  なお、その間、大阪赤十字病院は、昭和五七年夏期一時金は昭和五七年六月二八日付け確認書によってすべて終了しているとの態度も維持していた。

右に認定した事実に基づき、前記原告の主張につき判断するに、前記(二)の同年一月二五日の団体交渉は、本件初審命令の趣旨についての議論に終始しており、昭和五七年夏期一時金の上積みについての交渉には入っておらず、右交渉をもって、既に大阪赤十字病院は誠実に右上積みについての交渉に応じたものとすることはできないし、また、前記(三)及び(四)の大阪赤十字病院の参加人組合に対する各団体交渉申入れも、大阪赤十字病院においては、上積みはしないとの確固たる結論を既に有していて、参加人組合との交渉によって右結論を変える積もりはないのであるから、右上積みについての誠実な団体交渉申入れとはいい難く、したがって、前記2の正当な理由のない団体交渉拒否は未だ継続しているものというべきであって、参加人組合の被救済利益は失われていない。

なお、原告の、本件不当労働行為救済申立が参加人組合と大阪赤十字病院の間の団体交渉事項の枠を超えた問題を有利に導く目的の下になされたものであるとの主張については、仮に参加人組合にそのような目的があったとしても、参加人組合が、前記2(二)に認定したとおり単位組合と施設の間の団体交渉事項とされる夏期一時金に関する団体交渉を、前記2に述べたとおりに大阪赤十字病院から正当な理由なく拒否されているものと認められる以上、参加人組合には右団体交渉拒否についての被救済利益があるものというべきである。

三  以上のとおりであるから、本訴請求は理由がないので、これを棄却し、訴訟費用(参加により生じた費用を含む。)の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 川添利賢)

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